ヒトとコトと

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東日本大震災から6年、今年も届いた復活蔵の酒。岩手に想いを馳せて、今宵は一献。東日本大震災から6年、今年も届いた復活蔵の酒。岩手に想いを馳せて、今宵は一献。

東日本大震災から6年が経とうとしている2017年。一歩ずつ前進はしているものの復興への道のりはまだ途上です。コープデリでは、「忘れない」「伝える」「続ける」「つなげる」を合言葉に復興支援を続けています。
震災による津波で自宅兼醸造所のすべてを失った岩手県大槌町(おおつちちょう)の造り酒屋「赤武酒造」。失意のどん底で一度は諦めかけた酒造りでしたが、現在は盛岡市に場所を移し、見事に復活を遂げています。若い従業員のみなさんを中心に「岩手を代表する酒を造りたい」という熱い想いを胸に、一丸となって取り組む「赤武酒造」の酒造りと、看板商品である純米酒「浜娘」の魅力をお伝えします。

次のステップへ進もう、
岩手を代表する酒を造ろう。

2011年、津波によって大槌町にあった蔵が流失してしまった赤武酒造株式会社(以下、赤武酒造)。蔵元の古舘秀峰さんは、当時のことをこう振り返ります。
「もう酒造りを再開するのは無理だと途方にくれました。震災から2カ月ほど経ったある日、かねてからお世話になっていた地元のいわて生協にご挨拶に伺ったんです。そのときに『再開するならバックアップするよ』と力強い言葉をかけていただいて、思わず『やります!』と答えていました」。

赤武酒造 代表取締役 古舘秀峰さん

これをきっかけに古舘さんは、秋からの酒造りに向けて岩手県内で設備を貸してくれる酒蔵を探し回りました。いくつか心当たりがあったものの、他の酒蔵の人間が立ち入ることに抵抗を感じる蔵も多く、酒蔵探しは難航。そんな中、盛岡市の桜顔酒造が「酒造りを一緒にやるという形でなら」と手を差し伸べてくれました。こうして桜顔酒造の蔵の一部を借りる形で、酒造りを再開。代表銘柄である「浜娘」は、震災があった2011年も途絶えることなく造ることができました。
しかし、その時点では、古舘さんにはもう一度蔵を建てる気持ちはなかったといいます。「新しく蔵を建てる資金などない。どこか使っていない酒蔵を借りてやっていこう」と考えていたときに耳にしたのが、国の資金補助の話でした。手続きをして国から建設資金を補助してもらえることが決まり、古舘さんは蔵の再建に動き出しました。ただ、新しい蔵を大槌町に再び建てることは叶いませんでした。大槌町では住宅の復興を優先していたため、企業用地はすぐに用意できないと告げられたのです。そのため、盛岡市郊外に新しい蔵の建設を決め、2013年の夏に復活蔵が完成。被災後、3年目にして、自社の蔵での「浜娘」の醸造が始まりました。

被災後、3年目にして完成した復活蔵。ここで「浜娘」は造られています

そして6年目を迎えた2017年、古舘さんは新たな想いを胸に酒造りに取り組んでいます。「酒造りを再開できた当初は、とにかく復興すること、負けないことを目指していました。でもそれは目的ではないんです」と古舘さん。「造り手は本当に消費者が望んでいるものを造らないといけない。東北を応援しようという気持ちは涙が出るほどありがたいが、そこに甘えてはいられません。うちの酒を飲みたいというお客さんを作らなくては。いつまでたっても“支援だから”ではなく、おいしさ・飲みやすさで選んでもらえるようにしたい」。
赤武酒造の酒造りは、復興を目指していたところからさらに一歩進み、「岩手を代表する酒を造る」という次のステップへと動き出しています。

目指したのは、
雑味のないキレのある飲み口。

盛岡市に場所を移し、酒造りを再開した赤武酒造。大槌町の酒蔵で働いていた従業員は、被災したときに全員退職していたため、現在の復活蔵で働いているのは、盛岡市が行った合同面接会などで採用した若手が中心です。被災時はまだ東京農業大学醸造科の学生だった、古舘さんの長男の龍之介さんも岩手に戻り、赤武酒造の六代目として父とともに酒造りに取り組んでいます。今、赤武酒造では、五代目である古舘さんを筆頭に、六代目の龍之介さん、そして若い従業員たちによって、新世代を担う新たな酒造りへの挑戦が始まっています。ともすれば経験がものを言う酒造りの世界ですが、逆に経験がないぶん、詳細なデータを取り、それを造りに生かすという、今までとは違うアプローチの仕方で酒造りに挑んだことで、伝統の酒「浜娘」は進化を遂げました。

赤武酒造 古舘さんと従業員のみなさん

新たな挑戦の中で行き着いたのは「酒質をみがく」ということでした。「酒質をみがく」というのは、「米本来の味」を生かすということ。選んだ米の持ち味、性質、素質を酒の中に100%表現するために「一定の数値以上の酸は雑味になる」と考え、その原因を極限まで取り除く努力をしました。心がけているのは「少しずつ」「丁寧に」ということ。すべては酒質を優先するためです。

赤武酒造 酒造り工程

原料米には、岩手県産米を60%磨いたものを使用しています。60%というのは精米歩合のことで、玄米の表層部を40%削った状態のこと。酒造りにおいては、米を削ることを「米を磨く」と表現します。赤武酒造では、磨いたお米が割れないように10kgサイズの洗米機で小分けにして、お米を洗っています。これは、一度に大量に洗うことでお米の吸水率にばらつきを出さないためでもあります。次にお米を浸漬して、27〜31%の水を吸わせます。その時に、お米の種類、精米歩合、気温などによって「何度の水温で何分漬けると何%吸水するか」というデータをきちんと取って仕込みに生かしています。吸水が進みすぎると溶けやすい麹になるなど、この工程が出来に大きく影響するため、詳細なデータを取ることを大切にしています。

お米が割れないように10kgサイズの洗米機を使い、小分けで洗った後、浸漬。お米の給水率が一定になるように気を配ります

次はお米を蒸す工程です。水分を含んだ白米を甑(こしき)に入れ、蒸気で70分程蒸します。白米を蒸すことででんぷん組織が破壊され、麹菌などが活発に繁殖しやすくなります。「気温や米の状態にもよりますが、うちでは110℃で約70分蒸しています。燃料コストを考えて40~50分で蒸し上げる蔵もありますが、しっかり蒸し上げたいので長めに時間をかけています」と古舘さん。

お米を甑(こしき)に入れ、約110℃で70分間蒸し上げます

蒸し上げられた白米は手作業で広げて冷まします。その蒸米に麹菌を振りかけ、麹室(こうじむろ)で2日間かけて米麹を作ります。米麹とは、麹菌を米に振りかけて菌を繁殖させたもの。麹菌が米の中へ菌糸を伸ばしていく状態を「破精込み(はぜこみ)」といい、その状態によってできあがる日本酒の味わいが変わってくるため、とても重要な工程です。温度と湿度を麹の繁殖に最適になるように調整しながらの作業は、泊まり込みになることもあります。また、以前は素手で麹をかきまぜる作業を行っていましたが、余計な菌を少しでも減らした方が雑味のない酒になるため現在は手袋をはめて行い、麹の入れ替えの際にも洗浄を徹底しています。

蒸し上がったら放冷作業へ。熱々の蒸米を布に広げ冷ましていきます

麹によって糖化された蒸米をアルコールに変える時に活躍する菌が「酵母菌」です。赤武酒造では、岩手オリジナルの酵母「ジョバンニの調べ」と「ゆうこの想い」の2種類を使用。蒸米、米麹、水に酵母を加え、酒母(しゅぼ)を造ります。発酵工程に入る前に、あらかじめ酵母を培養して大量に増殖させたものが酒母。日本酒造りには良い酵母が大量に必要ですから、文字どおり「酒の母」を造る大切な工程です。

余計な菌を少しでも減らすため、作業が終わった後は、麹室(こうじむろ)の中の洗浄を徹底しています

「酒母」「麹」「仕込水」「蒸米」を発酵タンクに仕込み、発酵させたものが「もろみ」となります。日本酒は、このもろみを搾ることによって造られます。このとき行われるのが、日本酒造りの基本ともいえる「三段仕込み」。添え仕込み、仲仕込み、留仕込みと、複数回に分けて、麹と蒸米を加えていくことで、酒母の酸度を保ち、雑菌の繁殖を抑えることができるのです。3,000リットル(一升ビン約1,800本分)のタンクが11器。仕込むこと25〜30日間。発酵タンクの中では、米のでんぷんが麹の酵素によりブドウ糖へと分解され、そのブドウ糖は酵母によりアルコールへと変えられていきます。 「大手の酒蔵では毎日仕込むのですが、うちの場合、現状では4日に1本仕込むのが限界です。2日に1本仕込むとしても社員があと3人は必要」と古舘さん。ここでも酒質を優先するための「少しずつ」「丁寧に」の精神が生かされています。

仲仕込み中のタンク内。もろみの発酵がすすみ、芳醇な香りに包まれます

発酵して熟成したもろみを圧搾して、お酒と酒粕に分離する「上槽」(じょうそう)と呼ばれる作業を経て、火入れの作業へ。火入れとは、日本酒の腐敗を防ぐために熱を加える作業のこと。火落菌(ひおちきん)という味の劣化を招く恐れのある菌を殺菌したり、熟成を進みやすくしてしまう酵素の働きを止める目的で行われます。新しい蔵になって火入れは湯煎による瓶燗ではなく、酒の温度を一瞬で上げることでうまみを逃さないプレートヒーターに変更しました。

その後、急冷して、瓶貯蔵をしています。
古舘さんは瓶貯蔵に関してこう話します。「清酒はタンクで貯蔵するのが一般的ですが弊社では、-5℃で1本1本瓶で貯蔵しています。瓶貯蔵は、タンク貯蔵用火入れと比べると圧倒的に短い時間で火入れすることができるため、お酒の劣化が非常に少ないというメリットがあります。酒のうまさを逃さないための工夫です」。

伝統と新しさの
融合が生み出した「浜娘」。

若手社員のみなさんを中心に酒造りをするなかで、伝統に新しい息吹がもたらされ「浜娘」も進化を遂げました。研ぎすまされたキレのある飲み口は、さまざまな場面で高評価を得ています。「ワイングラスでおいしい日本酒アワード2014」で「浜娘 大吟醸」「浜娘 純米酒」がともに金賞を受賞したほか、「全国熱燗コンテスト2016」では、「浜娘 純米酒」が「プレミアム熱燗部門」で最高金賞、「浜娘 本醸造」は「お値打ち熱燗部門」で最高金賞と、W受賞を果たしています。このコンテストで受賞した日本酒はほぼ、酒造好適米の最高峰である山田錦使用の大吟醸だったため、岩手のお米を使った純米酒が受賞したことは快挙でした。

赤武酒造の看板商品は、「浜娘 純米酒 復活」。岩手県オリジナル酵母「ゆうこの想い」を使用した、麹のほのかに甘い香りが特徴のやや辛口の純米酒です。「お酒の質をどこまであげるか、ということを念頭に造った酒です。岩手を代表する酒を造りたいという一心で、磨きをかけました」という自信作を復活蔵から届けてくれました。「組合員さんには本当に感謝しています。震災後、コープデリで取り扱っていただき、我々が造った酒を本当にたくさんの方に飲んでいただけました。あれから数年経ち、その間にこれだけの酒を造れるまでになりました、というご報告をしたいです」と古舘さん。赤武酒造では今、「復興」という目的のさらに先を見た酒造りへの挑戦が始まっています。