ヒトとコトと

商品に携わる人と想い、伝えます。

“海のエコラベル”で続く、南三陸のカキ。私が選ぶことで、海の自然が守れるんだ。“海のエコラベル”で続く、南三陸のカキ。私が選ぶことで、海の自然が守れるんだ。

2011年に起きた東日本大震災。時を経て、一歩ずつ前進はしているものの復興への道のりはまだ途上です。コープデリでは、「忘れない」「伝える」「続ける」「つなげる」を合言葉に復興支援を続けています。
震災による津波で大きな被害を受けた宮城県南三陸町・志津川湾のカキ養殖。その苦境からの復活の後押しとなったのは、World Wide Fund for Nature(世界自然保護基金)(以下、WWF)の支援のもと設立されたASC認証“海のエコラベル”取得への取り組みでした。海の自然を守って養殖・漁獲された持続可能な水産物であることを、消費者に伝えるためのこのラベル認証。「CO・OP宮城県産冷凍かき大粒」が、ASC認証取得に必要な項目を達成する過程で起きた変化と、そこにあった生産者の想いをお伝えします。

WWFとの出会い

2011年、東日本大震災によって甚大な被害を受けた宮城県南三陸町。

そこでカキの養殖業を営んでいた、宮城県漁業協同組合 戸倉出張所 カキ部会 部会長の後藤清広さんは、住む家とともに、それまで築いてきたカキ養殖設備のすべてを津波で流されました。

宮城県漁業協同組合 志津川支所 運営委員 戸倉出張所 カキ部会 部会長 後藤清広さん

元々、戸倉では慢性的なカキの過密養殖が問題になっていました。たくさんのカキを密集させて育てるため、エサとなるプランクトンがカキに行き渡らず、大きく育ちません。総漁獲量を維持するためにさらに多くのカキを養殖するという悪循環が起きていました。場所を奪い合うように海にぎっしりと敷き詰められたカキ。解決の糸口が見つけられないまま漁師たちは日々の仕事に追われていました。そしてあの日、戸倉の漁師たちは皆等しく、すべてを失ったのでした。

未曾有の大災害の中で何とか命をつないだものの、後藤さんは仮設住宅で暮らすことを余儀なくされました。ライフライン復旧の見通しも立たず、明かりのない不自由な生活。
そんなときソーラー発電システムを携えて支援に訪れたのが、WWFです。彼らが仮設住宅にソーラー発電による蓄電システムを設置したことで、被災した方々のくらしにやっと、光が戻ってきました。闇の中で怯えて眠れなかった子どもたちも、それから徐々に平穏を取り戻すことができました。
「明日へ向かうための第一歩はWWFの人たちが持ってきてくれたんです」。後藤さんはWWFに感謝する中で、それまでの環境保護団体への考え方を改めます。漁業というのは本来、狩猟であり、多くの獲物を得ることがよしとされる世界です。環境保護団体は自分たちとは相容れない存在だと思っていました。
復旧、復興を行う中でWWFの方たちとの交流も多くなる中、後藤さんは、WWFが目指す「持続可能な漁業」という言葉に出会います。それは、それまでとは違う価値観を持った漁業でした。ただやみくもな漁業を行うのではなく、魚や貝などの水産物が繁殖する量や速さをきちんと考えた上で、漁も養殖も認めながら次世代にわたって漁業を続けていける方法を選択していこう、という考え方でした。
感銘を受けた後藤さんはそこから、カキの養殖にその考え方を取り入れるために奔走します。

ASC認証取得への挑戦

WWFの推奨する“海のエコラベル”には、漁で獲った天然水産資源に付けられるMSC(海洋管理協議会)と、養殖で育てた水産資源に対して付けられるASC(水産養殖管理協議会)という2つの認証基準があります。どちらも海の自然や資源を守る持続可能な水産物の認証制度です。カキの養殖でこのASC認証を受けるためには、海の生態系への影響の管理や、廃棄物の適切な処理と資源の効率的な利用をはじめとする、7つの原則の下にある250もの項目すべてに合格しなければなりません。
復興と合わせながらの申請準備のうえ、震災復興とは異なる取り組みであるために補助金も出ないとあり、他の漁師からの反発もありました。

後藤さんは振り返ります。「震災前、自分を含めた漁師たちは、とにかく人よりも多く獲ることだけを考えてきました」。その結果、漁場は場所争いで過密養殖の状態になり、品質も落ちていきます。カキ部会の部会長である後藤さんは危機感を抱き、漁師仲間たちと解決のための話し合いを試みるものの上手くはいきませんでした。それぞれが漁に必要な設備への投資回収に追われ、現実的には皆で譲り合って協力し合うなどということは成り立たなかったのです。
しかし、震災による津波で設備投資のすべてを失った時、「自然は人間が制圧できるようなものではないということを知りました。そして今が、将来にわたって続けていける漁業に転換する最後のチャンスだと思ったんです」。後藤さんの根気強い説得と、誰もがすべてを失いゼロから始めなければいけない、そのような状況なこともあり、新しい一歩を踏み出す漁師たちの気持ちが一つになったのでした。

「カキが、驚くほど大きく育ちます」

後藤さんが部会長を務める戸倉出張所のカキ部会の漁師たちは、WWFのバックアップのもと、求められている条件を成し遂げて日本初のASCの認証を取得。その結果、カキの大きさがそれまでの3倍になるという、驚くことが起こりました。これには理由がありました。

後藤さんの漁場ではカキ養殖にホタテの貝殻を使っています。樽をロープで繋いだ器具を海面に浮かべてホタテ貝をそこから海中に垂らすと、カキの稚貝が付着した「種かき」ができます。この状態では、稚貝が密集しすぎているため、一度ひき上げて解体し、改めて寄り合わせた2本のロープに種かきを挟み込む「種はさみ」を行って海に沈めます。

カキ養殖の仕組み(延縄式垂下養殖)

この設備を湾の中で広い範囲にわたって張り巡らすわけですが、これまではとにかくできる限り多くのカキを育てようとして、隙間なく密度の高い設置の仕方をしていました。しかし、ASCの基準ではこのやり方は通用しません。
ASCの二枚貝基準では、自然環境と生物多様性への悪影響を軽減しなければならないと定められています。その中で、プランクトンが枯渇しないよう、モニタリングと評価を行い、適切な密度で養殖をすることが厳しく求められています。
これを守るために、養殖するカキの数を減らし、これまでの3倍の広さを持たせることとなりました。

ロープで横一列に繋げた樽が海上に浮かんでいる様子。樽と樽の間に下げるカキが付着したロープの間隔と、列と列の間隔をどちらも今までの3倍の広さにしています

持続可能な環境を作り出すために施したこの方策は、やがて海中の状況に変化をもたらします。これまで過密養殖のカキたちは、エサとなる植物プランクトンを互いに奪い合って成長しました。しかし、ゆとりを持った養殖を行うことですべてのカキに多くの植物プランクトンが行き渡るようになり、ASC認証前のものより3倍の大きさにまで育ったのです。
1年で手のひら大のサイズまで育ったカキ。通常なら3年かかるサイズです。しかもそれが毎年獲れるというのです。まさに“譲り合いでもたらされる海の恵み”でした。

ASC認証の基準に合わせて養殖をした結果、3年かかるはずの手のひら大サイズまで1年で育つようになりました

さらにこの取り組みはもう一つの恵みをもたらしました。ASCの審査基準は環境的観点だけでなく、社会的な領域にまで及びます。地域社会に対する責任として地域の景観や騒音に配慮することを求め、また、適切な労働環境づくりをする義務として過剰な残業や不適切な賃金体系を強く戒めています。これらを達成したことで働きやすくなった後藤さんの養殖の現場に、新たな働き手が集まるようになりました。
こうして、後継者をも獲得した後藤さんのカキ部会が実現したのは、まさに「持続可能な漁業」の姿そのものでした。

海のミルクと称され、世界中の人々から愛されている食材、カキ。「CO・OP宮城県産冷凍かき大粒」その生産の裏側にはこんな物語がありました。これからも、コープは、ASC認証の付いた水産物の販売を通して海を守り続ける養殖を応援していきます。

ASC認証マークとは

自然環境に大きな負担をかけることなく、地域社会に配慮した養殖場で育てられた水産物に付いている、適正な活動の証です。