「匠味元気豚」の取り組みは、未来につながる挑戦です。

分娩から出荷まで
すべてのステージで、
抗生物質や
合成抗菌剤不使用
大槻さんが育てた匠味元気豚

「なるべく薬に頼らずに育てたお肉を食べたい」という組合員さんの声にお応えして、取り扱いがスタートした「大槻さんが育てた匠味元気豚」。分娩から出荷までのすべてのステージで、抗生物質・合成抗菌剤・駆虫剤を全く含まない飼料で飼育した豚です。長年、肉豚を育てることに情熱を注いできた養豚家の想いなどをご紹介します。

養豚にかけた夢が「匠味元気豚」へ
とつながっていきました

豊かな自然にかこまれた有限会社大槻ファーム

豊かな自然にかこまれた有限会社大槻ファーム

宮城県の最南端に位置する伊具郡丸森町にある有限会社大槻ファーム(以下、大槻ファーム)。代表の大槻孝雄さんが、自然豊かなこの地に農場を構えたのは、2002年のことです。「ずっと自分の農場を持つのが夢でした」という大槻さん。初めて豚を育てたのはまだ10代の頃だったといいます。「原点と言えるのは、いわゆる庭先養豚です。高校に上がる前から庭先で豚を飼って、学費の足しにしていました。それからずっと豚一筋です」。高校卒業後、3年間ほど神奈川県で養豚の研修を受け、その後、宮城県の企業養豚で働き始めました。農場長を任せられ、養豚に情熱を傾けてきた大槻さんが、「自分の農場を持つ」という夢を現実にしたのは51歳のときでした。

有限会社大槻ファーム 大槻孝雄さん

有限会社大槻ファーム 大槻孝雄さん

「自分の農場を作ると決めてからも10年かかりました。最初は、今の場所ではないところで土地交渉をしていたのですが、地域住民の反対にあって頓挫しました。さらに土地を確保してからも資金の調達ができなかったりと、様々な障壁がありました」。そんななかで大槻さんが一番時間をかけたのは、近隣住民への説明でした。「畜産業ですから、臭いや排水の問題などがあります。住民全員に納得してもらわないと経営はできないと思っていました」と大槻さん。5年もの時間をかけて根気強く説明する中で、お互いに信頼関係が生まれ、今ではとても良い関係が築けているのだとか。こうして、2002年に約180頭の養豚からスタートした大槻ファーム。堅実な経営で事業拡大を続け、2020年には母豚数720頭、出荷頭数年間約18,000頭にまで生産を伸ばしています。2018年からは、そのうちの母豚数80頭で抗生物質・合成抗菌剤を一切使用しない肥育を始めました。※感染予防のため、ワクチン接種を行っています。

飼料用米を配合したこだわりの飼料で
健やかでおいしい豚肉に

日本の食文化に合った豚肉を目指し、国産の飼料用米を配合した飼料を使用

日本の食文化に合った豚肉を目指し、国産の飼料用米を配合した飼料を使用

分娩から出荷までのすべてのステージで、抗生物質・合成抗菌剤・駆虫剤を全く含まない飼料で飼育した「匠味元気豚」。抗生物質不使用の養豚はヨーロッパでは主流ですが、飼養密度の高い日本ではまだ成功例が少なく、専用飼料の調達とともに、高い飼養技術と環境整備が必要不可欠です。

「無薬で豚を育てることにはずっと関心があったので、飼料会社から『やってみませんか』とすすめられたときにすぐに挑戦してみようと思いました。経営的なことを考えても『無薬』というのはかなりインパクトがあると感じました」と大槻さん。これまでも種豚に特定病原菌不在のSPF豚を用い、母乳によってしっかりと免疫力がついた生後3カ月以降の豚は、抗生物質や合成抗菌剤は使用せずに育てていました。ただ完全に無薬にすることには踏み切れずにいましたが「より安全でおいしい豚肉をお届けしたい」という強い想いもあり、あらためて、全飼育期間で抗生物質・合成抗菌剤・駆虫剤を一切使用しない肥育への取り組みを始めたのです。

大槻さんが育てているのは、母豚が「大ヨークシャー種(W)」と「ランドレース種(L)」を交配させたLW種のSPF豚、父豚が「しもふりレッド」という交配種です。特に「しもふりレッド」は、宮城県で8年もの年月をかけて研究開発されたブランド豚で、サシがバランスよく入っているため肉質はやわらかく、ジューシーで臭みがないのが特徴。3種類の品種を掛け合わせた豚は一般的に「三元豚」と呼ばれ、食味のよい肉質の代名詞にもなっています。

「薬に頼らずに育てるためには、免疫力のある子豚を見極めることが大切です。初乳を飲ませることが一番大事で、おっぱいをしっかり飲んだ子豚はほぼ間違いなく、病気をせずに育ってくれる」と大槻さん。そして離乳した後も抗生物質なしで育てるには、成長に合わせて専用の配合飼料を使用することが必要です。大槻さんには「欧州やアメリカ産とは違う日本の食文化に合った豚肉を作りたい」という想いがあり、国産の飼料用米を配合した飼料を使っています。「お米を食べさせることで、豚肉のオレイン酸が増え、あっさりとした味わいになります。でんぷん質は重要で、肉のしまりや味わいに影響します。たとえば、とうもろこしが多すぎると肉質がやわらかくなりすぎるんです」と大槻さん。また国産の飼料用米を取り入れているのには「国内食料自給率の向上にも貢献したい」という想いもあると語ります。

大切にしているのは、
「豚の声を聞いて仕事をする」こと

離乳直後の子豚を寒さから守る、密閉性に優れた「エコトン」

離乳直後の子豚を寒さから守る、密閉性に優れた「エコトン」

薬を使わずに育てるために一番重要なのは、厳重な衛生対策です。母豚が子豚を産む「分娩舎」、離乳した子豚を育てる「離乳舎」、大きくなった豚を出荷まで育てる「肥育舎」のそれぞれで、衛生管理と飼育環境に細心の注意を払っています。子豚が次の豚舎に移った後や出荷された後は、豚舎の中を徹底的に洗浄して、石灰を散布して消毒をします。また、防疫面では、周辺5km圏内に養豚場や民家がないため、出入りする車両の消毒を徹底することで疾病侵入を未然に防ぐことができています。野生動物の侵入を防ぐための金網やフェンスも設置して万全の体制を整えています。

飼育環境では、豚にストレスをかけない環境づくりに配慮。たとえば「離乳舎」には、小さい単位で管理可能なエコトンを使用しています。密閉性に優れているため、離乳直後の寒さに弱い子豚を守ることができます。その他の豚舎でも温度・湿度・換気の管理はもちろん、豚は音に敏感なため、静かな環境を心がけています。

大槻ファームのスタッフのみなさん

大槻ファームのスタッフのみなさん

大槻さんの信条は「豚の声を聞いて仕事をすること」。「豚からお金をもらっているんだから、豚を一番大事にしないとダメだと、従業員にはいつも言っています。豚の気持ちになって飼養管理にあたることが大切です」と大槻さん。大槻ファームのスタッフは、妻の静子さん、息子であり跡取りの赳士さん夫妻や若いスタッフも活躍しています。「生産も大切ですが、経営もやはり大切です。週休2日制を取り入れたり、安定した収入があることで、若い人も養豚の仕事に携わってくれる。将来は全員が経営者になれるようにという想いで育成しています」と大槻さんは笑顔で話します。しっかり人材を確保し、育成することは、養豚業の未来に大きく貢献することでもあります。

コープデリは、大槻さんのように畜産業の未来を見据えて真摯に仕事に取り組む生産者と、「選ぶことで未来につなげたい」、「大切に育てられたものを、大切にいただきたい」という組合員さんとを結ぶ架け橋でありたいと考えています。