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300年前の製法を再現し、木樽でじっくり熟成させた丸大豆しょうゆ。「挑戦したのは、古くて新しいしょうゆづくりです」300年前の製法を再現し、木樽でじっくり熟成させた丸大豆しょうゆ。「挑戦したのは、古くて新しいしょうゆづくりです」

しょうゆは和食に欠かせない調味料です。煮物、焼き魚、刺身など、毎日の食卓で大活躍してくれます。2007年に登場した「CO・OP木樽熟成特選丸大豆しょうゆ」は、「ワンランク上のしょうゆを家庭でも手軽に使えるように」と原料や製法すべてにこだわって、開発されました。深みのある香りとまろやかなうまみを作り出しているのは、木樽で18カ月以上熟成させる製法。300年以上前に確立されたといわれる、しょうゆづくりの基本を忠実に再現し、自然の力を借りながら深いうまみを出しています。

ちょっと贅沢な味わいを
日々の食卓へ。

日本の食文化が多様化し、世界各国の料理が気軽に食べられるようになりました。家庭でも和食に限らず、さまざまな料理が食卓に登場する時代ですが、一方で、和食の良さを見直そうという風潮が高まっています。そんな流れの中で、「和食に欠かせない調味料も、ワンランク上の商品を組合員さんにお届けしよう」と、2007年に登場したのが「CO・OP木樽熟成特選丸大豆しょうゆ」です。
「CO・OP木樽熟成特選丸大豆しょうゆ」には、たくさんのこだわりが詰まっています。大豆や小麦を国産のものに限定しているのもそのひとつです。ほかにも、食品添加物を使わず、丸大豆のまま仕込んでいるなど、こだわりは随所に。とりわけ、木樽で18カ月以上熟成させるという製法は、この商品のもっとも大きな特徴です。通常、しょうゆのもととなるもろみは鉄製のタンクで温度管理されながら発酵・熟成し、仕込みから6カ月ほどで出荷の時を迎えます。ところが、「CO・OP木樽熟成特選丸大豆しょうゆ」は、木製の樽を使用し、温度管理は自然の天候に任せながら、18カ月以上ゆっくりと時間をかけて発酵・熟成させています。この製法、なんと300年前のしょうゆづくりを再現したものなのです。ここまでこだわった製法を採用する背景には、老舗しょうゆメーカーの“ある想い”がありました。

もう一度、しょうゆづくりの原点へ。

「CO・OP木樽熟成特選丸大豆しょうゆ」を製造するのは、大分県臼杵市にあるフンドーキン醤油株式会社(以下、フンドーキン)。

大分県臼杵市にあるフンドーキン醤油株式会社

工場は自然豊かな臼杵の山間にあります。臼杵は、昔から良質な水源に恵まれ、臼杵川の水運を味方にしょうゆやみそ、日本酒などの醸造業が盛んなまちでした。江戸時代末期、ここでフンドーキンの前身、小手川商店が小さなしょうゆ屋として創業。それから100年以上にわたり、しょうゆづくりと向き合い続け、時代のニーズに応えてきました。
戦後を乗り越えた日本の食卓が、徐々に豊かさを取り戻し始めた高度経済成長期の幕開け、さまざまな食品工場が規模の拡大やオートメーション化を急ぎ、生産の効率化を図りました。フンドーキンも例外ではありません。工場の増設や機械化を進め、新商品の開発や販路の拡大も積極的に行ってきました。
そうして創業から130年が過ぎ、日本人の食生活がすっかり様変わりを見せた1990年代初頭、社内でこんな声が上がりました。
「機械化や合理化ができなかった時代、しょうゆはもっとおいしかったのではないだろうか」。
その問いかけに、だれもがハッとしました。しょうゆ醸造の基本が確立されたといわれるのは300年前。長い時を経て、今、しょうゆづくりにとって、大切な何かが忘れられようとしているのではないか。もう一度、しょうゆづくりの原点に立ち帰り、効率化も生産性も無視して当時の味を再現してみよう。ひとつの問いかけが作り手たちの心を動かし、300年前の製法再現に向けた挑戦が始まりました。

木樽でゆっくり、味わい深まる。

しょうゆの醸造工程でもっとも大切といえるのが、有用微生物(人間の生活に役立つ微生物)による発酵と熟成です。有用微生物である麹菌の働きによって、大豆と小麦、塩水を混ぜただけのもろみから、あのつややかで芳醇なしょうゆができあがります。機械化が進んだ現代、コンピュータ制御により麹菌が働きやすい温度設定を維持したり麹菌の活動を早めたり、しょうゆづくりに有利な環境を人工的につくり出すことができます。しかし、300年前、それは自然の気候に任せていました。仕込みは2月〜3月頃、外気温をゆっくりと伝える木製の樽の中で、冬からやがて春、夏へと徐々に上がる気温を感じながらもろみは有用微生物によって穏やかに発酵し、熟成されます。ゆっくり時間をかけて発酵・熟成を行うことで、しょうゆは豊かな風味を帯びていくのです。そんな300年前の製法を再現するため、まず取りかかったのは木樽づくりでした。さまざまな国内の木材で試作を繰り返し、1996年、吉野杉を使った最初の仕込み樽が完成。その5年後に樹齢400年以上のカナダ産ヒバを使用した高さ9m、直径6mの木樽を8基増設しました。「CO・OP木樽熟成特選丸大豆しょうゆ」は、現在、この木樽を使用してつくられています。その後、高さ・直径ともに9mという大きな木樽も完成して、昔ながらの木樽で熟成させるしょうゆづくりの環境が整いました。

高さ9m、直径6m、容量240キロリットルの大型木樽が、8基並んでいます

~「CO・OP木樽熟成
特選丸大豆しょうゆ」醸造工程~

大豆と小麦にフンドーキン独自の麹菌(種麹)をつけ、しょうゆ麹を作ります。そこに、ー5℃~0℃まで冷却した食塩水を加えます。食塩水と混合して仕込まれたしょうゆ麹が、もろみです。食塩水を加えることで、麹菌の繁殖が止まり、酵素が働きはじめます。こうしてもろみは、木樽の中でゆっくりと発酵・熟成していきます。

蒸した大豆と小麦を種麹菌と合わせ、温度・湿度を管理して「しょうゆ麹」を作ります

木樽に仕込んで1週間ほどで、麹菌が作り出す酵素がゆっくりと作用して大豆のタンパク質をアミノ酸に、小麦のでんぷんを糖分に変えていきます。これらのアミノ酸と糖分がしょうゆの味わいの基本となります。

木樽の中では乳酸菌と酵母菌が活動を始め、さらに発酵が進むと、もろみは赤みを帯びてプツプツと泡立ちます。フンドーキン醤油の工場長・堺留夫さんは、木樽で発酵・熟成させることについてこう話します。
「木樽の中の木肌には、フンドーキン独自の乳酸菌と酵母菌が棲みついているんです。それがうまく活躍してくれて、品質の安定したしょうゆができる。たとえば、ステレンレスや鉄製のタンクだと、菌が棲みつくところがないので、仕込むたびに一からのスタートになります。そういう意味では、品質はなかなか安定しない。その点、木樽は、最初の仕込みでいい乳酸菌と酵母菌が棲みついてくれれば、その後もずっと安心して仕込みができる。それが木樽の一番いいところです」。

フンドーキン醤油株式会社 醤油工場 工場長 堺 留夫さん。
マラソンが趣味で年2回はフルマラソンにも出場。そのタフさはしょうゆ造りにも生かされています

木樽の中では、微生物が盛んに活動を行い、しょうゆ独特の深みのある味や香り、色ができ上がります。堺さんは、「樽の中では、微生物そのものが自然の環境でしょうゆを作ってくれる。すべて微生物任せ。私たちは、そのお手伝いしかできません」と言いますが、季節や気温などに応じて人の感覚によるきめ細かいコントロールが必要なのは言うまでもありません。もろみの状態に応じてもろみに空気を送り込む「撹拌(かくはん)」という作業もそのひとつ。このかきまぜる作業は、もろみを管理する上でとても重要です。酵母菌や乳酸菌は、酸素がないと活動できません。攪拌することによって、もろみの中に酸素を送り込み、発酵を手助けする意味があります。また、発酵と腐敗は紙一重。かきまぜることで、腐敗、つまりカビを防ぐという目的もあります。昔は長い櫂棒(かいぼう)を使って作業していましたが、現在は、圧縮空気で行っています。
また、「もろみ改め(もろみあらため)」といって、月に一度はすべての木樽のもろみを担当者みんなで味見をして、香りや色、味を確かめています。

木樽からもろみを取り出し、状態を確認する「もろみ改め(もろみあらため)」の様子

「熟成の長さによって一番変わるのは、まずは色合いです。薄いだいだい色からどんどん濃くなって深みを増していきます。その次に香り。もろみが若いうちは、筋が1本ぴんと張ったような香りが強く感じられる。それが熟成されると、香りの幅が広がって複雑になっていく。そして次に味わいです。熟成期間が短いしょうゆは、よく『塩角(しおかど)が立つ』という言い方をします。同じ塩分濃度でも塩辛く感じるんです。それが時間とともに塩角が取れて、丸くなるんです」と堺さん。木樽で18カ月以上熟成させた「CO・OP木樽熟成特選丸大豆しょうゆ」は、「すべてにおいて、非常にバランスのいい時期のおしょうゆです。色もそんなに濃すぎず、香りもちょうどいい。塩角もとれて、まろやかな味わいです」と話します。

発酵・熟成されたもろみは、「圧搾(あっさく)」と呼ばれる作業に進みます。枠で囲まれた布に数リットルずつ入れ、ミルフィーユのように何枚も重ねて、ゆっくりと搾っていきます。この時に搾り出されたものが「生揚げ(きあげ)しょうゆ」です。

布で包まれたもろみを積み重ね、もろみ自身の重さで「生揚げしょうゆ」を搾り出す圧搾作業

次にこの「生揚げしょうゆ」を加熱・殺菌する「火入れ」の作業がおこなわれます。「火入れによって、そのしょうゆの個性が決まります。特に香りは、火香(ひが)といって、火を入れることで香りが立ってくるんです。また、熱を加えたことで凝固する沈殿物をきれいに取り除く澱引き(おりびき)によって、深みのあるきれいなしょうゆができあがります」と、堺さん。
大きな木樽の中でゆっくり18カ月もの時間をかけて発酵・熟成される昔ながらのしょうゆ。人工的な温度管理をせず、自然の温度環境にまかせるため、人の目と手で常にもろみの状態を確認しながらじっくり熟成の時を待ちます。やはり、現代の製法に比べて手間も時間もかかるのは仕方ありません。それでも、「日本一おいしいしょうゆをつくる」という信念のもと、木樽熟成はこれからも古くて新しいしょうゆづくりの手法として、受け継がれていくのでしょう。堺さんは、「どんなに技術が進歩しても、人が主になるもの作りというのは、昔も今も変わっていないと思います。木樽の中でじっくりと発酵・熟成されたしょうゆは、やはり香りも良く、まろやかな味わいです。ぜひこの違いを味わっていただきたいと思います」と胸を張ります。

フンドーキン醤油株式会社 醤油工場のみなさん

このしょうゆ、まろやか。

「CO・OP木樽熟成特選丸大豆しょうゆ」をワンランク上の味わいにしているのは、木樽だけではありません。もうひとつの秘密は、300年前のしょうゆにも使われていた丸大豆です。
しょうゆの仕込みに使う大豆には、脱脂加工大豆と丸大豆があります。脱脂加工大豆とは、あらかじめ大豆の油分を取り除いてフレーク状にしてあるもので、醸造が早く進み、油分を取り除く手間もかからないため、現代のしょうゆづくりに広く利用されています。しかし、当然のことながら300年前には存在しませんでした。一方、商品名にもなっている「丸大豆」は大豆そのままの状態。

醸造の過程で、大豆に含まれる油脂が甘味成分となるグリセリンなどに分解され、しょうゆの味わいに「まろやかさ」や「深いうまみ」などを付加します。食品添加物を一切使用しなくても、うまみが強いのは丸大豆のなせる技なのです。
こうして、日本の風土に寄り添いながら完成したしょうゆは、お刺身や冷や奴などシンプルな和食によく合います。素材そのものの味わいと一緒に、ふわっと口の中に広がるしょうゆのまろやかさ。それは、300年前、自然の力だけでしょうゆづくりを確立した先人たちからの贈り物です。